塗料におけるカーボンニュートラルとは?スモールスタートが大切
「カーボンニュートラルに向けた取り組みを始めたいけれど、何から始めたらよいかわからない…。」とお困りではありませんか?
カーボンニュートラルについて、詳しいことは理解しきれていないという方も多いでしょう。
そこで本記事では、カーボンニュートラルについて概要を解説し、塗料のライフサイクルにおけるCO2排出構造などを紹介します。
カーボンニュートラルを理解するために重要となるScope1・2・3などの用語についても、わかりやすく解説していますので、まずはざっくりと理解したい方は必見です。
目次
カーボンニュートラルとは?

画像引用:環境省 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」
カーボンニュートラルとは、CO2などの温室効果ガスの正味排出量をゼロにする考え方のことです。
地球温暖化対策への取り組みが国内外で加速しており、大手企業だけではなく、中小企業でもカーボンニュートラルの考えが広がっています。
まずはカーボンニュートラルの概要を確認して、混同しやすいカーボンオフセットとの違いも見ていきましょう。
CO2などの温室効果ガスの正味排出量をゼロにする考え方
カーボンニュートラルとは、企業や製品のライフサイクル全体で出る温室効果ガスを「実質ゼロ」にする考え方です。
排出量そのものをゼロにするのではなく、まずはできるだけ排出を減らし、それでも残ってしまう分については、森林づくりや再エネの普及など「地球にプラスになる取り組み」で埋め合わせて、全体としてプラスマイナスゼロにするという考え方となります。
温室効果ガスにはCO2のほか、メタンや一酸化二窒素なども含まれますが、産業活動で最も多いのはCO2です。
そのため、多くの企業がCO2削減を中心に取り組みを進めています。
世界的には、欧州や北米を中心に企業の脱炭素化が急速に進んでおり、日本では2050年のカーボンニュートラルが国全体の目標です。
カーボンオフセットとの違い
カーボンニュートラルと誤解されやすい言葉に「カーボンオフセット」があります。
カーボンオフセットとは、自社の削減活動ではカバーしきれない排出量の一部を、他社が実施したCO2削減活動や吸収量を購入して埋め合わせる手法です。
森林整備による吸収量や再エネ事業による削減量をクレジットとして購入するのが代表例となります。
しかし、カーボンオフセットは補完策であり、削減努力を行わずにクレジットだけでカーボンニュートラルを達成することは推奨されません。
例えば、塗料メーカーでは、乾燥炉の電力削減や工程改善によるCO2排出削減を進めたうえで、どうしても難しい部分にカーボンオフセットを活用するのが望ましい姿だといえます。
Scope1・2・3とは?理解しておきたい排出区分

画像引用:経済産業省資源エネルギー庁『知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは』
CO2などの温室効果ガス排出量を正しく理解するために必要なのが、以下の排出区分です。
- Scope1(自社の直接排出)
- Scope2(外部から購入したエネルギーの排出)
- Scope3(サプライチェーン全体の排出)
一見、難しく感じるかもしれませんが、上の画像を見て「排出源が自社の内か外か、どの範囲まで含むのか」というポイントを整理すれば理解しやすくなります。
それぞれを詳しく確認していきましょう。
Scope1(自社の直接排出)
Scope1は、自社の事業活動に伴う直接的な温室効果ガスの排出を指します。
代表的なのはボイラーや乾燥炉で使用するLNGや灯油などの燃料LNGや灯油などです。
また社用車・フォークリフトの燃料消費もScope1に含まれます。
工場内の設備は日常的に運転されるため、改善の余地が大きく、燃料の高効率化、ヒートポンプなどの電化、設備更新などで排出削減が可能です。
まずは稼働時間が長い設備や燃料消費量が多い設備から見直すと、効果が実感しやすくなります。
Scope2(外部から購入したエネルギーの排出)
Scope2は、購入した電力や蒸気などに起因する間接的な排出です。
例えば、塗料の製造では分散機やミキサー、ポンプなど多くの電動機器が稼働しており、製品の生産量が増えるほど排出量も増加します。
省エネを行う際は、インバータ化や高効率モーターへの切り替え、照明のLED化、空調設備の適正管理が効果的です。
近年は工場屋根への太陽光発電の設置や、再エネ電力プランの採用など、電力由来のCO2排出を減らす方法も普及しています。
Scope2の削減は企業イメージの向上にもつながり、投資対効果が高い領域です。
Scope3(サプライチェーン全体の排出)
Scope3は、自社では直接コントロールできない領域も含まれるため、最も複雑で規模の大きい排出区分です。
塗料メーカーの場合、樹脂・顔料・溶剤などの原材料の製造過程で多くのCO2が発生するほか、物流、顧客の塗装工程、使用後の廃棄、容器の処理までがScope3の対象となります。
塗装工程では、乾燥炉のエネルギー消費が大きく、塗料の種類や硬化温度がCO2排出量に直結します。
そのため、顧客と協力して低温で硬化する塗料を開発するなど、サプライチェーン全体で改善する視点が大切です。
Scope3の把握は難易度が高いですが、それだけに精度の高いデータが求められる領域でもあります。
製品が「どの材料から作られ、どの工程を経て、どのように使われ、最終的にどう処理されるのか」を一連の流れとして把握することが重要です。
今後は、原材料メーカーや物流企業、さらに塗装現場とも連携しながら、ライフサイクル全体の排出量をより正確に示すことが求められていくでしょう。
塗料のライフサイクルにおけるCO2排出構造
塗料は原材料の調達から製造、塗装、廃棄に至るまで幅広い工程を経るため、ライフサイクル全体で多様なCO2排出が発生します。
原材料では、樹脂や溶剤など石油由来成分の比率が高い分、上流の製造段階で多くのCO2が発生するのが特徴です。
製造工程では、分散・混練のための電気エネルギー、加温工程がCO2の排出源となります。
ユーザーでの工程では乾燥炉での乾燥で使用するエネルギー使用量が大きく、塗料の種類によって排出特性が大きく変わります。
塗料の飛散やロスによる廃棄も排出量に影響するので注意が必要です。
物流時の容器重量や輸送距離、使用後の残塗料や容器の処理もCO2排出につながります。
このように、製造だけでなくライフサイクル全体を通して排出が発生するため、LCA(ライフサイクルアセスメント)でどこに排出が集中しているかを見える化することが大切です。
効果的にカーボンニュートラルを進めるためには、この全体構造を理解した上で重点ポイントに取り組むことが鍵となります。
塗料メーカーが押さえるべきLCAについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
参考記事:塗料におけるLCAとは?環境配慮に重要な手法をわかりやすく解説
スモールスタートしやすいカーボンニュートラルの施策例
会社を上げてカーボンニュートラルに取り組む時に大切なのが、まずはスモールスタートで良いので始めてみることです。
以下は企業が始めやすいカーボンニュートラルの施策例となります。
- 省エネ運用の徹底→ 空調の適正設定、不要照明のオフ、待機電力の削減など
- 省エネ設備への段階的な更新→高効率モーターの採用、照明のLED化など
- 業務プロセスの最適化や無駄の削減→在庫の適正管理や紙処理のデジタル化など
この他にも塗料を扱う企業であれば、「低温で硬化する塗料」を採用することで、乾燥炉で使用するエネルギー消費量を削減可能です。
カーボンニュートラルは「まずは測る」「できる部分から改善する」「難しい領域は中長期的に検討する」という順序で進めることが重要です。
小さな施策でも積み重ねることで大きな成果につながり、企業全体のコスト削減や業務効率化にも貢献します。
