シンナー中毒は塗装作業で起こる?症状や事例、未然に防ぐ方法を解説
「長期間塗装業をしているけれど、シンナー中毒になっていないか心配…。」とお悩みの方もいらっしゃるでしょう。
健康被害を引き起こす可能性のある塗装でのシンナー中毒は、症状や事例を知っておくことで、適切な対処ができるようになります。
この記事ではシンナー中毒の症状や対処法、未然に防ぐ方法を解説しています。
実際に塗装作業をしている方、塗装事業を行っている経営者の方は必見です。
目次
塗装作業で起こるシンナー中毒の症状
シンナーを含む塗料を使用する塗装作業の現場では、以下のシンナー中毒が起こる可能性があります。
- 頭痛や吐き気
- シックハウス症候群
- 筋肉や脳の萎縮
シンナー中毒の症状について確認していきましょう。
頭痛やめまい・吐き気
シンナーを吸引してしまうと、中枢神経に強く作用して酔っぱらったような状態になります。
中枢神経系の症状の代表例は頭痛やめまいです。
さらに吸引を続けると、集中力や判断力が低下して無気力になったり、幻覚を見たりと症状が悪化します。
シンナーは中枢神経だけでなく消化器にも影響を及ぼし、吐き気が症状として表れることもあります。
重度の場合は嘔吐してしまうこともあるでしょう。
シックハウス症候群
シックハウス症候群は住宅の建材等から発生する化学物質による健康被害の総称ですが、塗装作業をしていると似たような症状が出る可能性があります。
シンナーは、シックハウス症候群の原因となるVOC(揮発性有機化合物)の一種です。
頭痛やめまい、吐き気、喉の痛みなどのシンナー中毒を引き起こす可能性があります。
外壁塗装の業界ではシックハウス症候群を防止するために、シンナーを含まない水性塗料が使われるケースが増えてきていますが、工業用塗装の現場では溶剤系塗料がまだまだ主流です。
筋肉や脳の萎縮
シンナーを長期間吸引していると、筋肉や脳が萎縮する原因となります。
筋肉が萎縮すると歩行困難や視力の低下につながり、日常生活にも支障をきたしかねません。
脳の萎縮は、脳細胞が脂質を溶かすシンナーによって破壊されることで起こります。
一度萎縮してしまうと回復することはなく、記憶力の低下や痴呆の症状が起きることも否定できません。
塗装作業でシンナー中毒になってしまった事例
塗装作業の現場では、実際にシンナー中毒になってしまった事例もあります。
- 肺炎の事例
- 急性シンナー中毒による死亡例
それぞれの事例を確認して、シンナー中毒を未然に防ぐように意識しましょう。
肺炎の事例
建設機械を製造しているとある会社では、塗装作業に従事している作業者が「間質性肺炎」の診断を受けてしまいました。
Aさんは、塗料の調合・クレーン部品へのマスキング・下地塗装と一般的な塗装作業を行う作業者です。
現場には局所排気装置が設置されており、Aさんもマスクを着用して作業をしていました。
しかし、Aさんは塗装する部品と局所排気装置のフードの間に入って作業をしており、塗料ミストを浴びながら作業を続けたところ、肺炎になってしまったという事例です。
Aさんが常に風上から作業を行えば防げたシンナー中毒だといえるでしょう。
参考:厚生労働省 労働災害事例「塗装ブースにて長期間塗装作業に従事して、有機溶剤の吸引による肺炎を発症」
急性シンナー中毒による死亡例
建築工場業を行うとある会社では、密閉性が高いピット内で防水塗料を塗装していた作業者Bさんがシンナー中毒で死亡してしまいました。
Bさんが使用していた塗料は無溶剤型のエポキシ樹脂塗料でしたが、希釈のためにシンナーを使用したことがわかっています。
ピット内は送風機が動いておらず、換気が不十分な場所でシンナーを吸引してしまい、死亡してしまった事例です。
Bさんはマスクも着用しておらず、適切な保護具の着用や換気を行えば、シンナー中毒は防げたといえるでしょう。
参考:厚生労働省 労働災害事例「防水塗装塗布作業中に急性トルエン中毒により死亡」
シンナー中毒の対処法
作業現場でシンナー中毒の作業者が発生した場合は、以下のように対処しましょう。
- 通気のよい場所で横向きに寝かせる
- 誤飲の場合は吐かせようとしない
- 医師の診断を受ける
焦って対処すると症状が悪化してしまう場合もあるので注意が必要です。
それぞれの対処法を簡単に確認しておきましょう。
通気のよい場所で横向きに寝かせる
作業者がシンナーを吸引してしまった場合は、直ちに通気のよい場所に移動させましょう。
この時、作業者の頭を低くして横向き(回復体位)に寝かせます。
作業者の意識がない場合、仰向けの姿勢で寝かせると、下の付け根が気道を塞ぐ恐れがあるので、必ず横向きに寝かせるようにしましょう。
誤飲の場合は吐かせようとしない
万が一、シンナーを誤飲した作業者がいる場合は、絶対に「吐かせようとしない」ことが大切です。
吐かせようとすると、シンナーが気管に入り、肺炎の危険性が高まるためです。
無理に吐かせようとせず、速やかに医師の診察を受けましょう。
医師の診察を受ける
通気のよい場所に移動して、頭痛や吐き気などの症状が治らない場合は、医師の診察を受けましょう。
少し症状が和らいでも、塗装作業にそのまま戻るのはNGです。
医師の診察を受けて、体調を万全にした状態で現場復帰するようにしましょう。
塗装作業でシンナー中毒を防ぐ方法
塗装作業でシンナー中毒を防ぐ方法には以下の2つがあります。
- 作業環境測定での現状把握
- 環境配慮型塗料の使用
塗装作業場でシンナー中毒を防ぐためには、事業者・作業者が同じ方向を向くことが大切です。
2つの方法を確認していきましょう。
作業環境測定での現状把握
病気のリスクを高めるシンナーなど有機溶剤を扱う作業場では、6ヶ月に1回作業環境測定を行い、現場の有機溶剤濃度を確認する必要があります。
これは労働安全衛生法で定められている事業者の義務です。
もし塗装作業場で作業環境測定を行っていないのであれば、直ちに実施しましょう。
作業環境測定では、第1管理区分・第2管理区分・第3管理区分に区分して、現場の現状を評価します。
第3管理区分に指定されてしまった場合は、シンナーなどの有機溶剤濃度を下げるために、局所排気装置を導入するなどの対策が必要です。
作業環境測定については以下の記事でも詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
参考:作業環境測定の管理区分って何?3つの管理区分について解説します
環境配慮型塗料の使用
当然ですが、シンナー中毒はシンナーを使用しなければ発生しません。
シンナーを使用しない塗料で有名なのは水性塗料ですが、その他にも粉体塗料やハイソリッド塗料など環境や人体への負荷が低い「環境配慮型塗料」も存在します。
水性塗料を使用する場合、設備や保管庫も水性塗料用に変更する必要があり、まだまだ普及していません。
そこでおすすめしたいのが特化則対応塗料です。
特化則対応塗料は、シンナーの1種であるエチルベンゼンの含有量が1%未満と極めて少なくなっており、作業者の健康に考慮した塗料だといえるでしょう。
基本的に溶剤型塗料を使用していた時と同じ設備を使えるため、低コストで導入できるのも魅力的です。
環境配慮型塗料については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
参考:環境配慮型塗料とは?溶剤型塗料に代わるおすすめの塗料を紹介
シンナー中毒にならないように適切な対策を!
塗装作業とシンナーは切っても切れない関係であり、この状況はしばらく続いていくでしょう。
塗装事業者は、作業環境測定を適切に行い、作業者の安全と健康を守るための作業づくりを常に意識することが重要です。
作業者の方は、自らが働く塗装作業場が安全な環境かどうか確認する権利があります。
万が一、作業環境測定が行われていない現場や、第3管理区分に指定されている現場の場合は、作業者から声を上げて、職場の改善を図っていくようにしましょう。
ミドリ商会では、作業環境測定の対応から局所排気設備や環境配慮型塗料の提案など、塗装にまつわるすべてをトータルでサポートできます。
塗装に関してお悩みであれば、以下よりお気軽にお問い合わせください。