塗料の「害」とは?社会的影響と事業的影響の2つの定義について解説
「塗料を害の少ないものに変えたい!」とお問い合わせをいただくことがありますが、その時は「貴社にとっての害とは何ですか?」とお尋ねするようにしています。
塗料の害は企業によって定義が異なることが多く、一概に「害の少ない塗料はこれです!」と提案できないのが実情です。
そこで本記事では、塗料の害を社会的影響と事業的影響の2つに分けて、わかりやすく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、害の少ない塗料選びの参考にしてください。
目次
塗料の「害」とは?
塗料の「害」と聞くと、多くの人は人体に及ぼす健康被害を想像するでしょう。
もちろん正解ではあるのですが、お客様によっては健康被害以外の「害」も存在します。
例えば、CSR(企業の社会的責任)としてCO2の削減を掲げている企業では、塗料の焼付乾燥が長くなればなるほどCO2が排出されるため、「害」だと考えるでしょう。
このように塗料の「害」は、お客様によって定義が異なります。
SDGsの取り組みとして塗料を変えたいと思っているお客様と、作業者の健康を守るために塗料を変えたいと思っているお客様がいれば、最適な塗料も変わってくるのです。
【社会的影響】塗料が及ぼす害の定義
まずは社会的影響の面から塗料の害について見ていきましょう。主な害は以下の2つです。
- CO2の排出
- VOCの排出
塗料の害が及ぼす社会的影響では、SDGsや地球温暖化などがキーワードになります。
大手自動車メーカーの下請けや孫請けであれば、CO2やVOCの排出量を少なくする目標を掲げている企業も多いでしょう。
塗料におけるCO2とVOCの排出について確認していきます。
CO2の排出
塗料におけるCO2の排出には、大きく分けて以下の2つがあります。
- 塗料を使う事業者が排出するCO2
- 塗料を作る時に出るCO2
塗料を購入するお客様では、塗料を作る時に出るCO2はコントロールできないため、主に塗料を使用する際に出るCO2について考えることが必要です。
焼付塗料の場合は、乾燥時にガス炉や乾燥炉を使用する際にCO2を排出しています。
乾燥温度が低い塗料や、乾燥時間が短い塗料を選べば、CO2の削減につながるでしょう。
VOCの排出
CO2と並んで社会的影響が大きいのがVOCの排出です。
VOCとは揮発性有機化合物のことであり、石油由来の成分から排出されます。
VOCは光化学スモッグやPM2.5の原因にもなるので、大気汚染を改善するためにも、企業に削減が求められているのです。
多くの塗料にはキシレンやトルエンなどの溶剤が含まれており、乾燥時にVOCが排出されます。
PRTR法(化学物質管理促進法)では、VOCの年間排出量が1t以上になる事業者に対して、国に排出量を報告することが義務付けられています。
キシレンやトルエンの含有量が少ない塗料を選ぶことで、VOCの排出量削減につながるでしょう。
【事業的影響】塗料が及ぼす害の定義
次は塗料を扱う事業者にとっての害を2つ確認していきます。
- 労働者の健康被害
- エネルギーコスト
塗料の害が及ぼす事業的影響では、有機則や特化則、電気代・ガス代がキーワードです。それぞれを掘り下げて確認していきましょう。
労働者の健康被害
塗料に含まれる有機溶剤の中には、労働者の健康被害を引き起こす可能性が高いものもあります。
塗料を扱う事業者は、労働者の安全と健康を守ることが最優先であり、最も気を付けなければなりません。
有機則や特化則に指定されている物質が含まれる塗料を使う時は、それぞれの規則に定められている義務の遵守が必須です。
万が一、義務を怠った場合、労働者の健康被害を引き起こす可能性が高くなります。
以下の記事では、有機溶剤が人体に与える健康被害について詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
■関連記事:塗装をしていると病気になる!?有機溶剤が人体に与える影響を解説
エネルギーコスト
塗料は塗膜を形成するために、乾燥工程が付いて回ります。
自然乾燥であればエネルギーコストはかかりませんが、時間短縮のために強制乾燥させる時は、電気炉やガス炉を使用するのが一般的です。
乾燥時間が長ければ長いほど、電気代やガス代が高くなってしまいます。
2023年9月現在、連日ニュースに取り上げられるほど電気代やガス代が高騰しており、歯止めがかかっていません。
塗料を扱う事業者も例外ではなく、エネルギーコストを下げるために、塗料を見直すユーザー様も出てきています。
環境配慮型塗料の一例
ユーザー様によって定義が異なる塗料の害ですが、環境配慮型の塗料に切り替えることで、それぞれのニーズを満たせる可能性があります。
以下は環境配慮型塗料の一例です。
- 水性塗料:VOCの削減、労働者の安全確保
- 特化則・有機則対応型塗料:VOCの削減、労働者の安全確保
- 低温乾燥型塗料:CO2の削減、エネルギーコストの削減
それぞれの特徴を簡単に確認していきましょう。
水性塗料
水性塗料は溶剤にシンナーではなく水を使用しており、乾燥してもVOCの排出がありません。
有機溶剤を使用していないため、労働者の健康被害を引き起こす可能性も低いと言えるでしょう。
コストが高いイメージがある、乾燥性が悪くなる、夏場と冬場で乾燥条件が変わり調整が難しいといったデメリットもありますが、塗料の害を減らすには最もメリットがあると言っても過言ではありません。
特化則・有機則対応型塗料
溶剤型塗料の一種ですが、特化則や有機則に定められている有機溶剤の含有が少なく、規則の対象外となる塗料です。
水性塗料と比べるとコストが安くて作業性も良いため、導入しやすい塗料だと言えるでしょう。
低温乾燥型塗料
低温乾燥型塗料は、その名のとおり焼付温度が低くても塗膜が形成される塗料です。
従来の焼付塗装よりも低温で乾燥できるため、乾燥炉で使用する電気やガスが少なくなります。
結果的にCO2やエネルギーコストの削減につながる塗料だと言えるでしょう。
やりたいことを塗料で実現しよう
CO2やVOCを削減したい、労働者の健康を守りたいなど、塗料を変える目的はユーザー様によって異なります。
塗料はあくまで目的達成のための手段であり、まずは自社で何をやりたいかを明確にすることが大切です。
やりたいことが明確になっていれば、それを実現するための塗料や手段をミドリ商会から提案できます。ぜひお気軽にお問い合わせください。